2026/05/29
人材育成従業員体験(EX)とは?向上させる取り組みや企業事例も解説
労働人口の減少や働き方の多様化が進む中、優秀な人材を獲得・定着させる経営テーマとして従業員体験(EX)が注目されています。しかし、「EXとは具体的に何を指すのか」「自社でどう取り組めばよいのか」と悩む人事・経営担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、従業員体験の基本的な意味から、構成要素、向上させるメリット、具体的な取り組み例、先進企業の事例、測定方法までを体系的に解説します。自社のEX向上のヒントを探している方は、ぜひ参考にしてください。
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従業員体験(EX)とは?
近年、人材確保や組織力強化の観点から、従業員体験(EX)が注目されています。まずはEXの基本的な意味や、混同されやすい顧客体験(CX)・従業員エンゲージメントとの関係・違いを整理しておきましょう。
- 従業員体験の意味
- 顧客体験(CX)との関係
- 従業員エンゲージメントとの違い
従業員体験の意味
従業員体験(Employee Experience:EX)とは、従業員が入社〜退社までの過程で、企業との関わりの中で得るすべての経験・体験の総体を指します。具体的には、採用、オンボーディング、日々の業務や上司・同僚との関係、評価・報酬、育成機会、職場環境、そして退職に至るまでの一連の接点が含まれます。
給与や福利厚生といった物理的な要素だけでなく、働きがいや心理的安全性、企業文化への共感といった感情的・心理的な側面も含む点が特徴です。
顧客体験(CX)との関係
従業員体験は、顧客体験(Customer Experience:CX)と密接に結びついています。
従業員が良い体験を通じて高いエンゲージメントや満足度を持つと、その姿勢はサービス品質や顧客対応に反映され、結果としてCXの向上につながるのです。逆に、従業員が不満やストレスを抱えた状態では、どれだけ施策を講じても顧客満足度は高まりにくくなります。
「EXの向上がCXの向上を生み、最終的に業績や企業価値の向上に至る」という好循環の起点としてEXを捉える考え方が広がっています。EXへの投資は、従業員のためだけでなく、顧客と企業の成長のための投資でもあるのです。
従業員エンゲージメントとの違い
従業員体験と混同されやすい概念に、従業員エンゲージメントがあります。両者は対象範囲が異なり、違いを整理すると以下のとおりです。
| 従業員体験(EX) | 従業員エンゲージメント | |
|---|---|---|
| 意味 | 従業員が得る経験・体験の総体 | 企業や仕事への愛着・貢献意欲 |
| 位置づけ | 原因(インプット) | 結果(アウトプット) |
| 範囲 | 入社から退社までの全接点 | 従業員の心理状態・態度 |
EXは従業員が「経験すること」全体を指し、エンゲージメントはその経験の結果として生まれる「企業への前向きな心理状態」を指します。良質なEXを設計することが、高いエンゲージメントを生み出す土台となります。
従業員体験(EX)の構成要素
従業員体験を向上させるには、まずどのような要素から構成されているのかを把握し、全体像を捉えることが重要です。
| 採用・オンボーディング | 入社前後の体験。企業への第一印象を左右する。 例:採用選考での対応、入社時研修、受け入れ体制 |
|---|---|
| 働き方 | 日々の仕事内容や働く環境にまつわる体験。 例:業務の裁量、ITツール、リモートワーク制度 |
| 人間関係・組織文化 | 上司・同僚との関わりや、組織の雰囲気。 例:1on1、心理的安全性、企業理念への共感 |
| 評価・報酬 | 自身の働きが正当に評価・処遇される体験。 例:人事評価制度、給与・賞与、表彰制度 |
| キャリア | 学びやキャリア形成に関する体験。 例:研修制度、キャリア面談、社内公募・異動 |
| 福利厚生 | 心身の健康やライフイベントを支える体験。 例:健康支援、休暇制度、育児・介護支援 |
| オフボーディング | 退職時の体験。アルムナイ関係にもつながる。 例:退職面談、引き継ぎ支援、退職後のつながり |
これらの要素は独立しているわけではなく、相互に影響し合いながら従業員一人ひとりの体験を形づくります。たとえば、優れた評価制度があっても上司との関係性が悪ければ満足度は下がりますし、働きやすい環境でも成長機会がなければ離職につながります。
従業員体験を高めるには、個別の施策にとどまらず、入社から退職までの一連のジャーニー全体を俯瞰して設計する視点が欠かせません。
従業員体験(EX)の向上で組織が得られるメリット
従業員体験の向上は、従業員一人ひとりの満足度を高めるだけでなく、組織全体にも大きなメリットをもたらします。人材・業績・顧客という3つの観点から、EX向上によって得られる代表的な効果を見ていきましょう。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 生産性の向上
- 顧客満足度(CX)の向上
従業員エンゲージメントの向上
従業員体験の向上は、従業員エンゲージメントの強化に直結します。
日々の業務や人間関係、評価・成長機会といった体験の質が高まることで、従業員は「この会社で働き続けたい」「組織に貢献したい」という気持ちを自然に抱くようになります。結果として離職率が低下し、優秀な人材の流出を防ぐことにつながるのです。
また、定着率の向上は採用コストや育成コストの削減にも寄与し、組織のノウハウ蓄積や中長期的な戦力強化にも好影響を与えます。
生産性の向上
働きがいや働きやすさが整った環境では、従業員は本来の力を発揮しやすくなり、組織全体の生産性向上につながります。従業員体験が高い組織では、従業員が主体的に業務に取り組み、新しいアイデアや改善提案も生まれやすくなるため、イノベーションの創出も期待できるでしょう。
また、心理的安全性が確保された職場では、チーム内の連携や情報共有が活発になり、業務効率や意思決定のスピードも向上します。こうした積み重ねが組織全体の競争力を底上げし、最終的には売上や利益といった業績面にも好影響をもたらすのです。
顧客満足度(CX)の向上
従業員体験の向上は、顧客満足度(CX)の向上にも波及します。
働く環境やエンゲージメントに満足している従業員は、自然と顧客に対する対応の質も高まり、丁寧で前向きなサービス提供が可能になります。特に接客業やカスタマーサポートなど、従業員と顧客の接点が多い業種では、その効果が顕著に表れやすいです。
さらに、サービス品質の向上は顧客ロイヤルティやリピート率の向上、口コミによる新規顧客の獲得にもつながり、業績へのプラス効果を生み出します。「EX向上→CX向上→業績向上」という好循環の起点として、EXは重要な役割を担っています。
従業員体験(EX)を向上させる取り組み例
従業員体験(EX)を向上させるには、入社から日々の業務、成長機会に至るまで、従業員のジャーニー全体を見据えた施策が欠かせません。多くの企業が取り組んでいる、代表的な5つの施策をご紹介します。
- 採用プロセスの改善
- 働きやすい職場環境の整備
- コミュニケーション活性化の仕組み作り
- 人事評価制度の整備
- キャリア形成機会の提供
採用プロセスの改善
応募から内定、入社までの過程で得る体験は、その後の組織への定着や貢献意欲に大きく影響します。納得感を持って入社した従業員は、その後のエンゲージメントも高まりやすくなります。
求人情報や面接で伝える内容と実際の職場環境にギャップがあると、入社後のミスマッチや早期離職を招きかねません。応募者目線で選考プロセスを設計し、企業文化や働き方をありのまま伝えること、選考中の対応を丁寧に行うことが重要です。
働きやすい職場環境の整備
長時間労働や非効率な業務プロセス、柔軟性に欠ける働き方は、従業員の心身の健康やパフォーマンスを損なう要因となります。多様なライフスタイルや価値観に対応した制度設計を行い、誰もが安心して働ける環境を整えることが大切です。
従業員体験を向上させるには、物理的な環境だけでなくメンタルヘルスや育児・介護といったライフイベントへの配慮も含めて、総合的にウェルビーイングを支える視点が求められます。
コミュニケーション活性化の仕組み作り
職場の人間関係や組織内の風通しは、EXを大きく左右する要素です。上司や同僚と気軽に相談・対話できる関係性があれば、心理的安全性が高まり、業務上の課題解決やイノベーションにもつながります。
一方、コミュニケーション不足は、モチベーション低下や離職の引き金にもなりかねません。リモートワークが普及した現在では、対面・オンラインを問わずに対話の機会を意図的に設計することが重要です。
人事評価制度の整備
「自分の働きが正当に評価されている」という実感は、従業員体験の根幹を支えます。評価基準が不明確だったり、評価結果に納得感が得られなかったりすると、不信感や不公平感が生まれ、エンゲージメントの低下を招きます。
人事評価制度は、単に処遇を決める仕組みではなく、従業員の成長を支援し、貢献を認めるためのコミュニケーション機会として設計することが重要です。
キャリア形成機会の提供
従業員が長期的に働き続けるためには、自社で成長し続けられるという実感が欠かせません。スキルアップやキャリア形成の機会が乏しい職場では、優秀な人材ほど社外に活躍の場を求めて離れていきます。
一人ひとりの志向やライフステージに応じた成長機会を提供し、キャリアを自律的に描ける環境を整えることが、長期的な従業員体験の向上につながります。
従業員体験(EX)の向上に成功した企業事例
従業員体験の向上に積極的に取り組み、成果を上げている企業の事例を紹介します。先進的な企業の取り組みから、自社で取り入れられるヒントを探ってみましょう。
- 事例1:ニトリホールディングス
- 事例2:Airbnb
- 事例3:Google
事例1:ニトリホールディングス
ニトリホールディングスでは一般的な人事部にあたる『組織開発室』を設置し、従業員のキャリア体験を可視化するエンプロイー・ジャーニーマップを導入。70歳から逆算して10年ごとにどの部署でどんな仕事をしたいかという人生設計を、全社員が年2回書き出す仕組みを運用しています。
また、3〜5年ごとに部署をまたぐ配置転換を行い、多様な経験を通じた成長機会を提供。一人ひとりのキャリア観と組織の戦略を結びつけ、長期的なEX向上を実現しています。
事例2:Airbnb
民泊仲介サービスを世界展開するAirbnbでは、従来の人事部を「Employee Experience(エンプロイーエクスペリエンス)」という専門部署として再定義し、採用やオンボーディング、職場環境、社員食堂、デジタル環境の整備まで、従業員のあらゆる体験を一貫して設計しているのが特徴です。
とくに新入社員が企業文化や業務にスムーズに馴染めるオンボーディングプロセスに注力しており、入社初日からの体験を丁寧に設計しています。これらの取り組みが評価され、米国の口コミサイトGlassdoorの「Best Places to Work」で第1位を獲得した実績もあります。
事例3:Google
Googleでは、無料で提供されるカフェテリアや社内ジム、医療サービス、手厚い産休・育休制度など、従業員の生活を全面的に支える福利厚生を整備し、業務に集中できる環境を提供しています。また、毎週金曜に開催される『TGIF』と呼ばれる全社ミーティングでは、CEOが社員の質問に直接答えるなど、トップと現場の距離を縮める取り組みも特徴的です。
定期的な社内アンケートを通じて従業員の声を経営に反映する文化も根付いており、こうした多面的なEX施策が、高い生産性とイノベーションを生む組織風土を支えています。
従業員体験(EX)を測定する方法
従業員体験を向上させるには、現状を正しく把握し、施策の効果を検証することが欠かせません。測定には定量・定性の両面からアプローチする手法があり、目的や測定したい内容に応じて使い分けることが重要です。
- 従業員満足度調査(ES調査)
- パルスサーベイ
- 定性的な対話
従業員満足度調査(ES調査)
従業員満足度調査(ES調査)は、職場環境、人間関係、評価制度、福利厚生など、さまざまな項目に対する従業員の満足度をアンケート形式で測定する手法です。年1〜2回など中長期的なサイクルで実施されることが多く、組織全体の状態を俯瞰的に把握できるのが特徴です。
エンゲージメントの度合いを測る設問を組み合わせれば、満足度に加えて従業員の貢献意欲も把握できます。設問設計や結果の分析を丁寧に行い、課題を可視化することで、具体的な改善施策へとつなげられます。
パルスサーベイ
パルスサーベイは、週次や月次といった短い周期で実施する簡易的な調査手法です。質問数を絞ったシンプルなアンケートを継続的に行うことで、従業員のコンディションや組織の変化をリアルタイムに近い形で把握できます。
年1回の大規模調査では見逃しがちな小さな変化やトレンドを捉えられるため、施策の効果検証や、問題の早期発見にも有効です。中長期的な従業員満足度調査と組み合わせることで、定点観測と継続観測の両軸からEXを把握できます。
定性的な対話
数値データだけでは捉えきれない、従業員一人ひとりの感情や背景にある課題を把握するには、定性的な対話が欠かせません。上司と部下による1on1ミーティングや、人事担当者によるヒアリング、退職時のエグジットインタビューなどがその代表例です。
アンケートでは表面化しない悩みや改善のヒントが得られるほか、対話そのものが「自分の声を聞いてもらえている」という従業員の安心感やエンゲージメントの向上にもつながります。定量調査と組み合わせて活用することで、より立体的にEXを理解できます。
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まとめ
本記事では、従業員体験の基本的な意味から、構成要素、向上させるメリット、具体的な取り組み例、先進企業の事例、測定方法までを体系的に解説しました。
従業員体験とは、従業員が入社から退職までに企業との関わりの中で得る経験の総体です。EXの向上は、エンゲージメントや生産性、顧客満足度の向上といった組織全体の成果につながります。
採用から評価、キャリア形成まで、従業員のジャーニー全体を見据えて施策を設計し、定期的な測定と改善を重ねていくことが重要です。本記事を参考に、自社に合ったEX向上の第一歩を踏み出してみてください。








