2025/07/03
離職対策カウンターオファーとは?意味や交渉成功率、その後の注意点も解説

昨今の人材不足や転職市場の活発化を背景に、企業にとって優秀な社員の流出を防ぐことは非常に重要な課題となりつつあります。その中で注目されているのが、カウンターオファーという手法です。
本記事では、カウンターオファーの意味や概要をはじめ、その後の注意点についても解説しています。企業がカウンターオファーを実施するメリット・デメリット、交渉成功率、提示される条件、成功のポイントについてもまとめていますので、ぜひお役立てください。
カウンターオファーとは?意味について
カウンターオファーとは、転職や退職の申し出に対して、現在の勤務先が引き留めを目的に提示する新たな条件や待遇のことを指します。たとえば、給与の増額や役職の昇格、勤務環境の改善などが挙げられるでしょう。
従業員が退職の意思を示した際に、「それならば○○の条件で残ってほしい」と企業側が提示する形で行われるのが一般的です。近年では優秀な人材の流出を防ぐため、企業側も積極的にカウンターオファーを活用する傾向があります。
カウンターオファーは転職市場でも注目されるテーマの一つであり、双方の利害が交差する重要な局面となります。
カウンターオファーの実施率と交渉成功率
近年、人材確保の一環としてカウンターオファーを実施する企業が増加しています。しかし、実際に退職を引き止められるケースは限られており、提示するだけでは十分とは言えません。
エン・ジャパン株式会社が2017年に発表した調査の結果を基に、実施率と交渉の成功率について解説します。
多くの企業がカウンターオファーを実施
エン・ジャパン株式会社が行った企業向け調査によると、回答企業775社のうち65%が、社員の退職意思表明時にカウンターオファーを提示した経験があると回答しています。
特に中途採用市場が活発な昨今では、即戦力となる人材の流出を防ぐ手段として、カウンターオファーを活用する企業が増加しています。給与や役職、勤務環境の改善などを条件に提示するケースが多く、人事戦略の一環として積極的に検討されている状況です。
カウンターオファーの交渉成功率は低い
一方で、カウンターオファーによって退職を回避できたケースは限定的です。同調査によると、「カウンターオファーの成功率は20%以下」と回答した企業は6割以上という結果でした。
つまり、提示してもほとんどの社員は退職の意思を変えなかったことになります。条件面を改善するだけでは、職場環境やキャリアの方向性といった根本的な課題の解決には至らないことが伺えるでしょう。
企業としては、カウンターオファーを打つ前に、本人の退職理由を丁寧にヒアリングし、本質的な解決に向けたアプローチを検討することが重要です。
カウンターオファーのメリット・デメリット
企業が退職希望者にカウンターオファーを行う際、その後の組織に与えるメリット・デメリットを考慮したうえで交渉することが重要です。具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのか、それぞれ詳しく見ていきましょう。
メリット | ・優秀な人材の流出を防ぐことができる ・即戦力の欠如による業務停滞を回避できる ・職場内のモチベーション維持につながる |
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デメリット | ・再離職のリスクが残る ・周囲に不公平感を与える可能性がある ・組織全体の人事制度や評価基準が揺らぐ恐れ |
カウンターオファーのメリット
優秀な人材の流出を防ぐことができる
カウンターオファーの最大のメリットは、退職を検討している優秀な人材の流出を防げる点にあります。
特に専門性の高い業務やリーダーシップを担う社員が離職すると、組織への影響は大きくなります。そうした人材に対して条件の見直しや役割変更を提示することで、現職への慰留を促し、再定着の可能性を高められるでしょう。
即戦力の欠如による業務停滞を回避できる
突然の退職は、現場の業務に大きな混乱をもたらします。後任の採用や育成には時間と労力がかかり、その間の業務負担が周囲に偏ることで生産性の低下や残業の増加も招きかねません。
カウンターオファーによって退職を思いとどまらせることができれば、こうした混乱を最小限に抑えられます。安定した業務運営を継続するためにも、有効な手段となり得ます。
職場内のモチベーション維持につながる
カウンターオファーは、対象社員に「必要とされている」と感じさせることで、エンゲージメントの向上につながる場合があります。また、周囲の社員に対しても、企業が人材を大切にしているという姿勢を示すことになり、組織全体の士気維持や信頼感の向上につながる可能性もあるでしょう。
ただし、不公平感を生まないように、他の社員への配慮も同時に求められます。
カウンターオファーのデメリット
再離職のリスクが残る
カウンターオファーによって一時的に退職を回避できたとしても、根本的な不満や退職理由が解消されていなければ、再び離職を検討する可能性は高くなります。給与やポジションの引き上げが動機付けになる場合もありますが、それが短期的な解決策にすぎない場合、結果的に再離職を招き、より深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
カウンターオファーを提示する際は、長期的な視点でのフォローが不可欠です。
周囲に不公平感を与える可能性がある
特定の社員が退職意思を表明したことで好条件を引き出した場合、周囲の社員に不公平感や不信感を抱かせる恐れがあります。努力や実績による正当な評価ではなく、「辞める」と言った者が得をするという印象を与えると、職場全体の士気低下やエンゲージメントの悪化につながる可能性も少なくありません。
人事制度やマネジメントの一貫性を維持するためにも、慎重な対応が求められます。
組織全体の人事制度や評価基準が揺らぐ恐れ
カウンターオファーにより個別対応が常態化すると、既存の評価制度や昇進基準との整合性が取れなくなり、組織全体の人事運用に混乱をもたらします。結果として、評価の透明性や公正性が損なわれ、人事制度そのものへの信頼が低下するリスクもあります。
例外的な対応を行う場合でも、その背景や理由を明確にし、制度全体との整合性を保つ工夫が必要です。
カウンターオファーで提示される交渉条件
カウンターオファーで企業が提示する主な交渉条件は、以下の4つです。
- 給与増額による待遇改善
- 役職の見直しによるキャリア提案
- 希望に応じた配置転換
- 雇用形態の変更
それぞれの条件の詳細と注意点について、詳しく見ていきましょう。
給与増額による待遇改善
カウンターオファーで最も多く提示される条件が、給与や賞与の増額です。
退職を検討する社員の多くは、報酬面への不満や他社との比較を背景にしています。そのため、給与水準を引き上げることで現職に留まる意欲を高める狙いがあります。
ただし、一時的な金銭的メリットだけでは長期的な定着にはつながらないこともあるため、給与以外の要素と組み合わせて提案することが重要です。
役職の見直しによるキャリア提案
退職の理由としてキャリアアップの機会不足が挙げられる場合、役職や職務内容の見直しは有効なカウンターオファーの手段です。
昇進やリーダーシップの付与、担当業務の拡大など、社員の成長意欲に応える条件を提示することで、本人のモチベーションを喚起し、組織へのコミットメントを強化します。ただし、組織全体の人事制度との整合性にも注意が必要です。
希望に応じた配置転換
部署や業務内容の変更も、カウンターオファーでよく提示される交渉条件です。
現在の職場環境や仕事内容に不満がある場合、本人の希望や適性に応じた配置転換によって、働きやすさややりがいの向上を図れます。これにより、社員の離職防止だけでなく、パフォーマンスの向上や組織の活性化も期待できます。
ただし、配置転換が他部署に与える影響も考慮する必要があります。
雇用形態の変更
正社員から契約社員やパートタイムへの変更、あるいはその逆など、雇用形態の柔軟な変更もカウンターオファーの一つです。例えば、育児や介護などの事情を抱える社員に対して、勤務時間の調整や契約形態の変更を提案し、働きやすい環境を整えることで退職意向の払拭を図ります。
ただし、雇用形態変更は待遇や福利厚生に影響を与えるため、社員と十分に協議することが重要です。
カウンターオファーで交渉を成功させるポイント
先述の通り、カウンターオファーはただ単純に好条件を提示しても、成功する可能性は低いものです。少しでも成功の確率を高めるためにも、カウンターオファーを提示する際は以下のポイントを意識しましょう。
- 退職理由を正確に把握し本質的な課題に対応する
- 提示条件のバランスを考慮し過度な期待を避ける
- 他社員への影響を配慮した対応を行う
退職理由を正確に把握し本質的な課題に対応する
カウンターオファーの交渉を成功させるためには、まず社員が退職を決意した本質的な理由を正確に把握することが不可欠です。給与や待遇だけでなく、職場の人間関係、キャリアビジョンの不一致、業務内容のミスマッチなど、複合的な背景がある場合も多いため、丁寧なヒアリングが求められます。
表面的な条件改善だけでは根本的な問題は解消されず、再度離職のリスクを高める可能性があるため、課題の本質に対応した提案が重要です。
提示条件のバランスを考慮し過度な期待を避ける
カウンターオファーの条件提示は、社員の要望に応えることが目的ですが、過度な条件を提示すると企業側の負担が増大し、他の社員との公平性が損なわれる恐れがあります。
また、過剰な期待を持たせることで、将来的に条件に見合った成果が得られない場合にトラブルに発展しかねません。そのため、会社の人事制度や経営状況を踏まえた適切なバランスで条件を設定し、現実的かつ持続可能な提案を行うことが求められます。
他社員への影響を配慮した対応を行う
特定の社員に対してカウンターオファーを提示する際は、周囲の社員に不公平感や不信感を与えないよう配慮が必要です。
不公平感が職場の士気低下やチームワークの悪化を招くこともあるため、コミュニケーションや説明責任を果たすことが重要です。また、社内の評価制度や処遇基準との整合性を保つため、例外的な対応の背景や理由を明確にし、透明性を確保することが組織全体の信頼維持につながります。
カウンターオファーのその後の注意点
カウンターオファーを実施した後も、適切な対応を怠ると再離職や職場の不公平感といった問題が生じる可能性があります。企業は交渉後のフォローや情報共有を徹底し、組織全体の安定と社員の定着を図ることが重要です。
カウンターオファーのその後の注意点を3つご紹介しますので、参考にしてください。
- 再離職リスクに備えた継続的なフォローアップ
- カウンターオファー実施の影響を組織全体で共有
- 離職防止策としてのカウンターオファーの位置づけを明確にする
再離職リスクに備えた継続的なフォローアップ
カウンターオファーで退職を思いとどまった社員でも、根本的な問題が解決していなければ再離職のリスクは残ります。そのため、条件提示後も定期的な面談や状況確認を行い、モチベーションや職場環境の変化を把握することが重要です。
問題点を早期に発見し、適切に対応することで長期的な定着を促進し、組織の安定化につなげることが求められます。
カウンターオファー実施の影響を組織全体で共有
特定の社員にカウンターオファーを行った場合、その情報や影響は組織全体に波及します。公平性の観点からも、関係部署やマネジメント層と情報を共有し、適切なフォローや対応策を協議することが大切です。
これにより職場全体の士気維持や不公平感の軽減につながり、組織風土の健全化に寄与します。
離職防止策としてのカウンターオファーの位置づけを明確にする
カウンターオファーはあくまで離職防止の一手段であり、万能策ではありません。企業としては、カウンターオファーを実施する際の目的や役割を明確にし、他の人事施策と連携した総合的な離職防止策の一環として位置づけることが重要です。
安易な条件提示の乱用を避け、組織全体のバランスを考慮した運用が求められます。
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まとめ
本記事では、カウンターオファーの意味や概要をはじめ、その後の注意点についても解説しました。
カウンターオファーは、優秀な社員の離職を防ぎ、即戦力を維持する有効な手段の一つですが、成功率は決して高くなく、一時的な対処にとどまるケースも少なくありません。提示する条件や交渉の進め方にはバランスが求められ、組織全体の公平性や評価制度との整合性にも配慮が必要です。
また、交渉後のフォローや職場環境の改善を継続的に行うことが、社員の定着や組織の健全な運営につながります。カウンターオファーを単なる引き留め策とせず、総合的な人材戦略の一環として活用しましょう。