2024/05/03
離職対策【専門家監修】止まらない若手社員の離職を防止!早期離職の理由と対策まとめ
構造的な少子高齢化による人手不足と採用難がますます深刻になっています。
それらを少しでも解決していく手段として、ロボットの導入や外国人労働者のさらなる活用とともに、現在勤めている社員にできるだけ長く勤続し活躍してもらうというリテンション(人材定着)・マネジメントの重要性が増してきました。
しかし、企業がリテンションを進める上で大きな壁となっているのが、転職の増加です。特に、20代等の若手社員の早期離職はずっと高止まりしたままになっています。
そこで、若手社員の離職の現状と離職が止まらない理由、そして離職防止の方法について考えてみます。
この記事の監修者
青山学院大学経営学部
山本 寛 教授
働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントを研究しています。具体的には、①若手人材・優秀人材に長く定着し活躍してもらうため組織に何ができるか、②転職の一般化に伴い、働く人は、組織を渡り歩くことでいかにキャリアを形成していくか、③働く人が、いかに自分の雇用される能力を高めていけるか、それを組織が支援できるか、④働く人が、いかに自分の専門性を確立し向上できるか、それを組織が支援していくか等です。
研究室ホームページ近年の若手社員の離職状況
近年の若手社員の離職状況はどのようになっているでしょうか。まず、厚生労働省の新規学卒者の離職状況から大卒者の就職後3年以内離職率の推移をみてみましょう
過去の推移をみても、ここ25年ほどはほぼ30%台で推移しています。つまり、新卒で入社した社員は、約1/3が3年以内に離職している状況に大きな変化はありません。
次に離職率を他の年代と比較すると、19歳以下、 20~24歳、25~29歳の若手従業員の離職率は他の年齢層より高く、年齢が高くなるほど離職率は低下します。すなわち、若手社員の早期離職は社員の離職の中でも特に大きな問題だといえます。第2新卒等、受け入れ先が比較的多いことも影響していると考えられます。
もちろん、業種別による差異は大きいため、まずは同業種内での企業間の離職率の差に注目する必要があるといえます。
3つの調査結果から見る若手社員の離職理由
それでは、若手社員はどのような理由で離職するのでしょうか。近年公開された代表的な3つの調査結果から、実際転職をした20代若手社員の離職理由を検討していきましょう。
それぞれから上位5位までを挙げ、比較していきます(すべて複数回答)
離職理由調査Aについて
まず、1年以内に転職した人を対象とした転職サービスdodaの調査結果(調査結果A)をみてみましょう。
順位 | 離職理由 |
1位 | 給与が低い・昇給が見込めない |
2位 | 人間関係が悪い/うまくいかない |
3位 | 社員を育てる環境がない |
4位 | ほかにやりたい仕事がある |
5位 | 労働時間に不満(残業が多い/休日出勤がある) |
第1位の「給与が低い・昇給が見込めない」は全年齢層対象の調査でも第1位でした(他の年齢層の順位の記載省略)。これは、代表的な「処遇が原因の離職理由」であり、年代による差が少ない理由といえます。
これに対し、20代で特に高いのは、「ほかにやりたい仕事がある」でした。これは、代表的な「仕事が原因の離職理由」といえます。<これまでとキャリアの方向を変えたい>というキャリアチェンジ志向は若手ほど高いといわれており、まさにその表れといえます。
なお、この調査では単一回答で転職の一番の理由も尋ねており、その第1位は「人間関係が悪い/うまくいかない」でした。これは、代表的な「組織が原因の離職理由」といえます。他の年代と比較して2~3倍ほど高い比率であり、若手社員の転職理由の大きな特徴といえます。
離職理由調査Bについて
次に、同じく1年以内に転職した人対象のリクルートエージェントの調査結果(調査結果B)をみてみましょう。
順位 | 離職理由 |
1位 | 労働時間・環境が不満だった |
2位 | 仕事が合わなかった |
3位 | キャリアアップしたかった |
4位 | 給与が低かった |
4位 | 自身の働き方を見直したかった |
まず、第1位の「労働時間・環境が不満だった」は全年齢層対象の調査でも第1位でした。これも調査結果Aと同じ代表的な処遇原因の理由です。また、調査結果Aと調査結果Bで順位は異なりますが、給与と労働時間という代表的な二つの処遇原因の理由が共通していることがわかります。
加えて、他の年齢層と比較して高いのは、「仕事内容が合わない」でした。この離職理由も調査結果Aと同じく、若手社員の大きな特徴です。
さらに、「自身の働き方を見直したかった」は、今後のキャリア形成を意識した理由であり、現職では難しいと判断し、新たな環境を求めて転職を決意した人が少なくないことが窺えます。これも調査結果Aで指摘されたキャリアチェンジ志向を反映しているといえます。
離職理由調査Cについて
最後に、退職の報告をする際「本当の理由を伝えなかった」と回答した人に、本当の退職理由を尋ねたエン・ジャパンの調査結果(調査結果C)をみてみましょう。
順位 | 離職理由 |
1位 | 職場の人間関係が悪い |
1位 | 給料が低い |
3位 | 会社の将来性に不安を感じた |
4位 | 社風・風土が合わない |
4位 | 仕事内容が合わない |
他の調査と同様、上位に組織原因の理由(「職場の人間関係が悪い」)と処遇原因の理由(「給料が低い」)が上がっています。また、「社風・風土が合わない」も代表的な組織原因の理由です。
さらに、他の年齢層より高い理由として「仕事内容が合わない」が上がっており、これも調査結果Aの傾向と同様です。この理由は他の調査で挙げられた若手の代表的転職理由であるとともに、代表的な離職理由です。
離職率計算エクセルテンプレート
従業員人数、離職者数などを入力することで年間の離職率を簡易に計算することができます。
無料ダウンロード各調査結果に対する考察・まとめ
3つの調査から、自発的離職の代表的理由である「処遇」、「仕事」、「組織」それぞれが原因の離職理由が20代の若手社員でも共通してみられました。処遇原因の理由として、「給与」と「労働時間」が上がっていることも明らかになりました。
これらの点も重要ですが、若手の離職理由として注目すべきは、他の年代より高かった「自身の働き方を見直したかった」「ほかにやりたい仕事がある」「仕事内容が合わない」等です。
若手のうち、特に入社1~3年の初期キャリア段階は、自分の能力・適性等をチェックし、試行的な経験を行う探索期にあるといわれています。社会人として働き始めたこの時期は、仕事も覚えきれず、経験も少ないため、自信をもちにくい傾向にあります。
また、多くが初歩的レベルの仕事を担当するため、将来仕事で成功するため必要なスキルをどう身につけるべきか明確にわからない人も多いでしょう。そのため、自分の能力と仕事や会社で必要とされる条件を一致させようと、試行錯誤せざるを得ません。
さらに、この時期はジェットコースターに例えられます。経験が少ないこともあり、ささいな失敗にも挫折し、逆に小さな事がきっかけでモチベーションが高まることも多くみられます。
すなわち、成功・失敗経験に大きな影響を受ける心理的振幅が大きい時期です。そこで、以上に挙げた「仕事内容が合わない」「自身の働き方を見直したかった」等の仕事原因の離職理由が他の年齢層より高いと考えられます。
また、「人間関係が悪い」等の組織原因の理由の順位が高いことも要注意です。自信のなさもあり、他者からの影響を受けやすい若手社員の特徴から考えると、この時期の同僚・上司の指導や助言は非常に重要となります。
若手社員の離職防止方法
具体的に若手社員の離職を防止するにはどのような施策が必要でしょうか。厚生労働省によると、15~34歳の若年社員の定着のための対策を行っている事業所は7割を超えています。
正規 | 非正規 | |
定着のための対策を行っている (定着のための具体的施策) | 72.0% | 57.1% |
職場での意思疎通の向上 | 59.0% | 58.3% |
本人の能力・適性に合った配置 | 53.5% | 49.4% |
採用前の詳細な説明・情報提供 | 52.0% | 49.2% |
教育訓練の実施・援助 | 49.5% | 35.7% |
多くの企業で実際に定着のための施策を行っていることがわかります。その中で、「職場での意思疎通の向上」が最も高く、次いで「本人の能力・適性にあった配置」、「採用前の詳細な説明・情報提供」、「教育訓練の実施・援助」の順です。
企業は職場でのコミュニケーション促進、適性配置、採用前の詳細な情報提供、積極的な能力開発を重視していることがわかります。また、労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励は働き方改革の重要な施策です。
さらに、非正規社員に対して半数以上の企業で施策を実施しているとともに、教育訓練を除けば施策ごとの実施率に大きな違いはみられません。人手不足状況の深刻さが影響していると考えられます。
以上の調査結果に基づき、代表的な定着のための施策をみていきましょう。
コミュニケーション活性化施策
上記調査でも上位だったコミュニケーションの活性化施策を、方向別にみていきます。
タテのコミュニケーション活性化
まず、経営トップや上司との「タテのコミュニケーション」として、近年導入が進んでいるのが1on1ミーティング(上司と部下の定期面談)です。これについては、上司は傾聴に徹し、仕事の進捗等の話題は避ける必要があります。こうした配慮によって、部下の離職の兆候を察知する可能性も生まれるため、上司への研修も効果的です。
ヨコのコミュニケーション活性化
次に、「ヨコのコミュニケーション」の強化とは、組織が意識的に社員同士のネットワークの構築や、それを通した「同期(同僚)意識」形成を促すことです。
多くの新入社員が初任配属先で先輩社員とのコミュニケーションに苦労する背景には、人手不足により同期や年齢の近い社員が少ない職場が増えていることがあります。そうしたつまずきが早期退職の火種にならないよう留意する必要があります。
そのためには、組織のミッションやバリューを反映した行動を社員どうしでほめ合う「サンクスカード」や、社員同士が日々の仕事における行動や結果を評価し、お互いに報酬を贈り合う「ピアボーナス」等のツールも有効です。
ナナメのコミュニケーション活性化
最後が、別の部署の社員等との「ナナメのコミュニケーション」の強化です。
一つの部署にある程度の期間勤めていると、部署内の人間関係、マネジメントや仕事のやり方等についての率直な意見や不満を言いにくいことが生じます。そうした場合、別の部署の人は比較的利害関係が少ないため不満を漏らしやすく、さらに別の視点での考え方を知ることもできます。
そのための施策には、社内勉強会、異業種交流会や社会人が通いやすい夜間大学院等があり、組織が助成することが可能です。また、他部署でこんな取り組みをしているという情報を社内報で伝えること等も有効です。
採用における施策
採用における施策として、以前から取り上げられてきた考え方が「現実的職務予告」です。これは、入社希望者に対し採用後、どのように働くかを明確に伝える採用過程をいいます。
つまり、入社後多くの社員が体験するようなことについては、ネガティブに受け取られがちなものも包み隠さず開示することです。それによって実際体験した場合も、事前に予想されているため、組織への信頼感が損なわれることは少なくなります。
実際、人材サービス業X社では情報をオープンにし、特に厳しい所を意識的に伝えました。また転職者には、1日か半日程度オフィスで働いてもらいました(その結果、入社に至らなかったケースもありました)。これらの結果、その後の退職が減ったといいます。
配置における施策
現在の人材不足の状況で、”成長志向”が強い若年層を会社に引き留めるには、彼らが「どんな内容の仕事をするか」「どの部署で働くか」に配慮することは重要です。最も望ましいのは適材適所の配置、つまり「適性配置」でしょう。
配置は、職場の人間関係とも密接に関係するため、合わない上司の下で転職を考えていた人が、異動で上司が替わった結果、転職を考えなくなる例もよくみられます。しかし、社員が異動したい部署と多くの社員を必要とする部署は必ずしも一致しない等、現実的に難しいという声も聞かれます。
ただし、成長志向が強い人が増えているのは確かです。一人ひとりの適性に合った配置のために努力していることを社員にわかってもらうことが必要です。
具体的には自己申告制度や人材公募制度を活用することです。それが社員の定着につながると考えられます。特に、中小企業では、一人ひとりの仕事の幅は広いため、配慮しやすいといえます。
労働時間管理における施策
長時間労働は社員のメンタルヘルスにマイナスに働き、疾病等の可能性を高めてしまうものです。働き方改革でも、残業時間削減は重要な施策になっています。
また、若手社員の「ブラック企業」忌避の傾向は非常に強いものがあり、ワークライフバランスという概念が浸透してから社会に出た若い世代にとって、「労働時間が長いこと」は特に忌避される要因になっています。そのため、適正な労働時間管理を行うことは、定着のための対策として有効です。
ポイントとして、一律にノー残業デーを設ける等より、休日休暇の取得ルールを変え可能な限り休みたいときに休めること等が求められています。これら以外にも、報酬管理、評価方法や方針、能力開発、キャリア開発の支援、福利厚生等の多くの施策を考える必要があります。
若手社員の離職防止は要因に合わせたアプローチが重要
若手社員の離職を防止したいと思っても、やみくもに施策を講じては期待していた効果は得られない場合がほとんどです。止まらない若手社員の離職に歯止めをかけるには、企業が抱える課題である離職要因を一つひとつ分析し、それぞれに合わせた適切なアプローチが必要になります。
HR pentestなら、イグジットインタビューで抽出した退職者の本音から「現場で実際に何が起きているか」を高い解像度で把握・分析することで、組織課題の解決に有効な施策を導き出せます。在職者向けアンケートや分析レポートもパッケージされているため、多角的なアプローチが可能です。
本音を引き出せる | ・イグジットインタビュー研修でスキルUP ・実務を通したトレーニング&フィードバック |
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実際にHR pentestを導入した企業様の事例は、以下の記事を参考にしてください。
若手社員の離職防止が大切な理由
若手社員の離職防止が重要視されている理由は、企業にとって様々なマイナスの影響を与えるためです。代表的なマイナスの影響として、以下のものが挙げられます。
- 採用/教育コストの損失
- 企業のイメージダウン
- 他の社員のモチベーション低下
それぞれを詳しく見ていきましょう。
採用/教育コストの損失
人材1人あたりの採用コストは平均平均100万円近くかかると言われています。求人広告の出稿や面接過程での人件費、さらには新入社員を一人前に育てあげるまでに教育や研修コストもかかるものです。
若手社員のうちに早期離職してしまうと、今までにかけた採用・教育コストが回収されず全て損失となってしまいます。離職防止に取り組むことで、社員一人ひとりに長期的に活躍してもらえるため、コストの損失を防止することが可能です。
企業のイメージダウン
若手社員の早期離職が止まらない企業は「働きやすい環境が整っていない」、「業務内容が過酷」、「労働条件がブラック」「パワハラが横行している」など、イメージダウンを招いてしまいます。そのため、採用の難易度が高くなるだけでなく、企業の評価や信用にも影響を及ぼす可能性が考えられます。
対して、若手社員の定着率が高い企業は「働きやすい職場」というイメージアップに繋がり、優秀な人材を確保しやすくなります。
他の社員のモチベーション低下
若手社員の早期離職が続くと、他の社員の業務負担が増えるほか、企業の将来性への不安も募って結果的にモチベーションを低下させてしまいます。モチベーションが下がると生産性や仕事の品質が低下してしまい、最悪の場合は次々に離職が続く連鎖退職を招いてしまう恐れもあるでしょう。
組織全体のモチベーションを高く維持し、業務を円滑に遂行できる環境を整えるためにも、若手社員の離職は可能な限り防止することが重要です。
止まらない若手社員の早期離職の理由と対策まとめ
本記事では、止まらない若手社員の離職を防止する方法についてご紹介しました。
少子高齢化や働き方の多様性に伴って人材確保が難化する昨今において、若手社員の離職防止は企業にとって大きな課題と言えます。若手社員の早期離職を防止するには、様々な離職要因に対して適切なアプローチを一つひとつかけていき、組織課題を改善していくことが重要です。
若手社員の離職が止まらない、効果的なリテンション施策が講じられなくてお困りだった方は、ぜひ本記事を役立ててください。