2024/05/25
離職対策【専門家監修】リテンションマネジメントとは?企業事例と離職防止に効果的な施策種類まとめ
現代のビジネスシーンにおいて、優秀な人材の確保と離職防止は企業の成功に欠かせない要素となっています。
しかし、従業員の離職が続けばその度に新たな人材を探し、育成するための時間とコストを負担しなければなりません。このような状況を避けるために、多くの企業が注目しているのが”リテンションマネジメント”です。
本記事では、リテンションマネジメントの意味や効果について詳しく解説しています。リテンション施策の種類や企業の事例についても紹介していますので、ぜひ自社の離職防止にお役立てください。
この記事の監修者
青山学院大学経営学部
山本 寛 教授
働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントを研究しています。具体的には、①若手人材・優秀人材に長く定着し活躍してもらうため組織に何ができるか、②転職の一般化に伴い、働く人は、組織を渡り歩くことでいかにキャリアを形成していくか、③働く人が、いかに自分の雇用される能力を高めていけるか、それを組織が支援できるか、④働く人が、いかに自分の専門性を確立し向上できるか、それを組織が支援していくか等です。
研究室ホームページ人事におけるリテンションマネジメントとは?
リテンションマネジメントとは、『retention(維持・保持)』と『management(管理)』を組み合わせた言葉です。人事領域においては企業が人材を長期間にわたり確保し、離職を防ぐとともにより活躍してもらうための戦略や施策のことを指します。
具体的には、従業員の満足度向上やキャリア開発、職場環境の改善などの施策を通じて満足度向上を図り、社員の定着化やエンゲージメント向上に繋げる人事管理手法です。その中で行われる施策を”リテンション施策”や”リテンション戦略”と呼びます。
また、マーケティング領域でのリテンションマネジメントは、既存顧客との良好な関係を維持するための施策を指します。
リテンションマネジメントが重要視される背景と現状
なぜ、リテンションマネジメントやリテンション施策が重要視されるのでしょうか?重要視される背景や実際にリテンションマネジメントに取り組んでいる企業の例を見ていきましょう。
労働人口の減少による人手不足
少子高齢化に伴う労働人口の減少により、近年では多くの企業が人手不足に悩まされています。帝国データバンクのアンケート(全国27,308社を対象、有効回答企業数11,431社)では、人手不足を感じている企業は52.6%という回答結果が出ています。
引用:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」(2024年1月)
そのため、従業員の離職を防ぎ、長期間にわたり会社で活躍してもらうためのリテンションマネジメントが重要視されるようになりました。
人材が定着しにくい時代
働き方の多様化が進む中で終身雇用慣習は崩壊しつつあり、今では転職が当たり前の時代となりました。厚生労働省のアンケートによると新規高卒就職者39.0%、新規大卒就職者32.3%が就職後3年以内に離職しており、約3人に1人の割合で早期離職をしていることがわかります。
引用:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)」
求職者よりも求人数が多い”売り手市場”であることも相まって、以前にも増して人材の定着化は難しくなっています。
リテンションマネジメントがもたらすメリット・効果
企業がリテンションマネジメントやリテンション施策に取り組むことで得られる、主なメリットは以下の4つです。それぞれ具体的に見ていきましょう。
採用と教育にかかるコストの引き下げ
従業員が離職してしまうと、人材補填のために採用や教育コストがかかります。求人広告や研修にかかる経済的コストのほか、時間や労力など人材補填には様々なコストが発生するものです。
リテンションマネジメントで離職率を低下させることができれば、これらのコストを引き下げて企業や従業員の負担を軽減することができます。
スキルやノウハウの蓄積による生産性向上
人材の入れ替わりが激しい環境だと、高いスキルやノウハウを身に着けた従業員が流出してしまい、生産性の低下を招いてしまいます。従業員の離職に伴って業務の引き継ぎが発生する場合は、他の従業員の業務負担にも繋がります。
リテンションマネジメントで従業員を定着化することで、社内に安定的にスキルやノウハウが蓄積され、生産性の向上を期待することができます。
長期的な事業計画の遂行
長期的な事業計画を立てて実行に移すためには、従業員の育成や適性を持った人物の採用といった人事戦略が必要不可欠です。人材の入れ替わりが少なければ、従業員それぞれのスキルや適性を正確に見極めることができ、長期的な事業計画を立てる際に確実性が高まります。
企業のイメージアップ
離職率が高い企業は、求職者や顧客から「職場環境や組織体制に問題を抱えている」というネガティブなイメージを持たれてしまう場合があります。採用活動の際に不利になるだけでなく、企業間の取引にも悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
その反面、定着率が高い企業は「働きがいがある企業」「従業員を大切にしている企業」というポジティブなイメージが付きやすく、優秀な人材を確保しやすくなります。
離職率計算エクセルテンプレート
従業員人数、離職者数などを入力することで年間の離職率を簡易に計算することができます。
無料ダウンロード離職防止に効果的なリテンション施策の種類
離職防止に効果的なリテンション施策には、大きく分けて「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2つに分類されます。それぞれどのような施策が考えられるのか、具体的に見ていきましょう。
金銭的報酬 | ・能力に応じた給与システム ・インセンティブ制度 ・ストックオプション ・各種手当 |
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非金銭的報酬 | ・コミュニケーション活性化 ・ワークライフバランスの向上 ・スキルやキャリアアップのサポート ・職場環境の整備 |
金銭的報酬
金銭的報酬は、名前の通り金銭を伴うリテンション施策です。具体的な施策としては、基本給のベースアップやインセンティブ、家賃補助などの手当、従業員に企業の株式を購入する権利を付与するストックオプションなどが考えられます。
しかし、金銭的報酬には限界があるため、既に一定の報酬を払っている企業にとっては一時的な効果しか生まれない可能性があります。他社がより高い報酬を提示する、成果主義を伴う過労などで人材流出に繋がる恐れもあるでしょう。
そのため、金銭的報酬だけでなく非金銭的報酬を伴うリテンション施策もバランス良く講じることが、離職率改善の重要なポイントです。
非金銭的報酬
非金銭的報酬は、コミュニケーションの活性化やワークライフバランスの向上といった、金銭を伴わないリテンション施策です。具体的な施策については以下のようなものが考えられます。
コミュニケーション活性化に関するリテンション施策
- 懇親会や社内イベント
- フリーアドレス制度
- メンター制度
- 1on1ミーティング
- ランチミーティング
- 社内SNS
ワークライフバランスの向上に関するリテンション施策
- ノー残業デー
- 時短勤務
- フレックスタイム制度
- リフレッシュ休暇
- 産前、産後休暇
- 相談窓口の開設によるメンタルケア
スキルやキャリアアップのサポートに関するリテンション施策
- 資格取得支援制度
- マネジメント研修
- 社内公募制度
- 社内FA制度
- キャリアカウンセリング
職場環境の整備に関するリテンション施策
- 設備投資
- ITツール導入
- テレワーク制度
- 5S活動(整理/整頓/清掃/清潔/しつけ)
リテンションに取り組んだ企業の施策事例
自社の離職率を改善するには、他社のリテンション施策を参考にするのも一手です。企業がどのようなリテンション施策に取り組んでいるのか、事例を見ていきましょう。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、2023年から「個々が成長を実感して挑戦できるような職場環境を作っていくこと」を目的とした新人事制度を導入しました。同社は今までにも、技能系社員の賃金の見直しや再雇用制度など様々なリテンション施策を講じてきましたが、多様性・成長・貢献を3本柱とした大きな体制変更となります。
評価制度の整備やスキルアップサポート、ワークライフバランスの向上も見据えたこれらのリテンション施策は、従業員満足度の向上に大きく期待が集まっています。
クックパッド株式会社
料理のプラットフォームを提供するクックパッド株式会社では、ユニークなリテンション施策を講じているのが特徴的です。従業員専用のレンタルキッチンスペースを確保する、 作物収穫の体験型研修など、事業の軸となる料理にまつわるリテンション施策も講じられています。
従業員の主体性やコミュニケーションを促進する制度が充実しており、定着化に働きかけています。
株式会社アイネット
システム開発やクラウドサービスを提供する株式会社アイネットでは、若手従業員に着目したリテンション施策を講じています。教育研修体系や働きやすい環境の整備に取り組み、若手従業員の成長を促しつつ長く活躍できる組織作りに努められています。
これらのリテンション施策を講じてから、若手社員の定着率向上や残業時間の短縮、メンタルヘルスを要因とした休職も大幅に減少させることに成功しました。
リテンション施策を講じる際のポイント
的はずれなリテンション施策を講じてしまうと、余計なコストが発生するだけでなく、人材確保が遅れる恐れもあります。そうならないためにも、リテンション施策を成功させるためのポイントをご紹介します。
従業員のニーズを把握する
リテンション施策を成功させるには、従業員のニーズを把握することが重要です。
既存社員には定期的な面談やアンケートを実施、退職者にはイグジットインタビュー(退職面談)を実施して、会社への不満や仕事への満足度に対する意見を集めます。集まった社員の声から会社の弱点となる組織課題を分析し、適切な対策を取ることで離職率の改善が期待できます。
施策の効果測定と改善を継続する
一度リテンション施策を講じたら満足するのではなく、改善を継続していくことが大切です。
リテンション施策の効果を定期的に評価し、必要に応じて改善を行うことで、リテンションマネジメントの効果を持続させることができます。リテンション施策は効果が現れるまでに時間がかかりますが、根気強く分析と効果測定を行いましょう。
ツール・AIを活用する
離職率の改善にはデータの蓄積や分析、施策の実行や効果測定など、時間やコストがかかります。既に社員に業務負担がかかっている場合、リテンション施策を講じるとなるとさらなる負担となってしまいますので、ツールやAIを活用するのも一手です。
HR pentestは、退職者を中心とした従業員の本音から「現場で実際に何が起きているか?」を高い解像度で把握・分析することで、組織課題の解決や離職防止をサポートするツールです。自然言語解析AIに加えて、専任担当者によるサポートも付けることができます。
以下のようなお悩みを抱えている方は、ぜひ一度資料をダウンロードしてみてください。
- 離職要因の分析の仕方がわからない…
- 退職者の本音の聞き出し方がわからない…
- 課題が不明瞭で施策がわからない…
- 給料が原因だと何もできない…
本音を引き出せる | ・イグジットインタビュー研修でスキルUP ・実務を通したトレーニング&フィードバック |
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解像度の高い面談記録 | ・自動文字起こしでそのまま蓄積 ・AIによる離職要因解析 ・退職者の生の声から課題がわかる |
施策につながる | ・定量×定性で効果的に分析 ・在職者からも退職者からも不満を発見 ・高い解像度で課題把握=施策につながる! |
実際にHR pentestを導入した企業様の事例は、以下の記事を参考にしてください。
まとめ:自社の課題に応じたリテンションマネジメントを
リテンションマネジメントは優秀な人材を確保し、事業成長を続けていくために重要な人事戦略です。
コミュニケーションの活性化やスキルアップのフォロー、報酬の見直しなど様々なリテンション施策が考えられますが、どのようなアプローチが有効なのか判断する際は従業員のニーズを把握することが重要です。そのためには既存従業員への定期的な面談やアンケートのほか、退職者へのイグジットインタビューを実施するのも一手です。
自社の課題から有効なリテンション施策を導き出し、効果測定と改善を継続して人材の流出を防止しましょう。