2025/06/04
人材育成目標管理制度(MBO)は時代遅れ?問題点やメリットもわかりやすく解説

目標管理制度(MBO)は、多くの企業で導入されている人事評価制度の一つです。しかし、近年では「MBOは時代遅れ」「廃止した方が良い」といった声も聞かれるようになり、その有効性に疑問を抱く企業も増えつつあります。
本記事では、目標管理制度が時代遅れと言われる理由と、運用を成功させるためのポイントについて解説しています。目標管理制度が持つ本来のメリット・デメリットや問題点、向いている企業の特徴についてもまとめました。
目標管理制度の導入や見直しを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目標管理制度(MBO)とは?
目標管理制度(MBO:Management by Objectives)とは、従業員一人ひとりが業務目標を設定し、その達成度によって評価や報酬を決定するマネジメント手法です。1954年に経営学者ピーター・ドラッカーによって提唱され、成果主義の代表的な制度として世界中で採用されてきました。
一般的には、企業のビジョンや部門目標をもとに個人ごとの目標を設定し、一定期間ごとに進捗確認やフィードバックを行うことで、組織と個人の成長を両立させる仕組みとなっています。
目標管理制度の目的やメリット・デメリットについて、より深堀りしていきましょう。
- 目標管理制度(MBO)の目的
- 目標管理制度(MBO)のメリット
- 目標管理制度(MBO)のデメリット
目標管理制度(MBO)の目的
目標管理制度の主な目的は、一人ひとりの従業員が自身の業務目標に責任を持ち、主体的に行動する組織文化をつくることです。個人目標と組織目標を連動させることで、全体最適を実現しやすくなり、業績向上や従業員の成長を促進できます。
また、目標の明確化によって評価基準が透明になり、納得感のある人事評価や適正な報酬制度の運用にもつながります。組織全体の方向性と従業員の行動を一致させるための有効な制度と言えるでしょう。
目標管理制度(MBO)のメリット
目標管理制度は、個人と組織の目標を一致させやすく、従業員の主体性や成果意識を高める効果があります。また、評価基準が明確になることで、公平性のある人事評価にもつながるでしょう。
目標管理制度(MBO)のデメリット
目標管理制度は制度の設計や運用に手間がかかり、適切に実施しなければ形骸化する恐れがあります。また、数値目標に偏ると質やプロセスが軽視されがちです。
目標管理制度(MBO)が時代遅れと言われる理由
目標管理制度は多くの企業が取り入れているものの、働き方改革が進む昨今では現場から「時代遅れ」「廃止すべき」という声が上がっているケースもあります。なぜ目標管理制度が時代遅れと言われるのか、理由について詳しく見ていきましょう。
- 価値観の多様化に追いついていない
- 急速に変化するビジネス環境に対応しづらい
- 個人最適に偏ってしまう
価値観の多様化に追いついていない
現代の働き方は大きく変化しており、従業員一人ひとりの価値観やキャリア志向も多様化しています。しかし、目標管理制度は組織目標を基準に個人の目標を設定する仕組みのため、画一的な目標管理になりがちです。
たとえば、「昇進を目指したい人」と「ワークライフバランスを重視したい人」では、動機付けのポイントが異なります。MBOではこうした個人の内発的な価値観を十分に反映しきれず、モチベーションを下げてしまう可能性があります。
その結果、制度への納得感やエンゲージメントが低下しやすくなる点が、時代遅れと言われる一因となりつつあるのです。
急速に変化するビジネス環境に対応しづらい
現代のビジネスは、テクノロジーの進化や市場ニーズの変化が激しく、長期的な予測が困難です。しかし、目標管理制度では年単位や四半期単位など、あらかじめ決めた目標をベースに評価するため、変化への柔軟な対応が難しいという課題があります。
たとえば、途中で市場環境が大きく変わっても、設定した目標がそのまま評価基準となるため、現場の実情と合わなくなることもあるでしょう。これにより、成果主義の本来の目的である「柔軟で成果に直結した行動の促進」がかえって阻害される場合もあり、時代に合っていないと見なされる理由となっています。
個人最適に偏ってしまう
目標管理制度では個人の目標達成が評価の中心となるため、チームや組織全体での協働が軽視される傾向があります。個人の成果ばかりが重視されると、他メンバーとの情報共有や助け合いよりも、自分の目標達成を優先する行動が促されやすくなりがちです。
その結果、部門間の連携が希薄になったり、チームワークが損なわれるといった弊害が生じることがあります。特に、複雑化・多様化する現代の業務では、個人ではなくチーム単位での対応が求められる場面が増えています。
そうした状況において目標管理制度の枠組みでは限界があり、「個人最適」に偏る設計が時代遅れとされる要因となっているのでしょう。
目標管理制度(MBO)を運用する際の問題点
目標管理制度を運用する際、現場担当者は様々な問題点を抱えるものです。どのような問題点があるのか、代表的な例について見ていきましょう。
- 目標設定が形式的になりやすい
- 評価が主観的になりやすい
- 運用コストが高く、定着しにくい
- 結果重視でプロセスが軽視される
目標設定が形式的になりやすい
目標管理制度を導入しても、現場での目標設定が形式的に行われるケースは少なくありません。特に目標設定の目的や意義が十分に理解されていない場合、「とりあえず立てる」だけの形骸化した運用に陥ることがあります。
また、上司主導で一方的に目標が決まると、本人の納得感や主体性が欠け、モチベーションの低下を招く恐れもあります。さらに、現場の業務内容と乖離した目標が設定されると、日々の業務に目標が活かされず、制度そのものの価値が薄れてしまいます。
目標管理制度の本来の効果を発揮するためには、現実に即した柔軟で納得感のある目標設定が不可欠です。
評価が主観的になりやすい
目標管理制度は、数値目標の達成度に基づく評価が前提となりますが、実際には業務の質や周囲への貢献など定量化しにくい側面も多く含まれます。そのため、評価者の主観や解釈によって結果が左右されやすく、不公平感が生まれる要因となります。
また、目標の達成状況だけでは個人の努力や成長を正確に測ることは難しく、「結果は出なかったが価値のある挑戦だった」というケースが正当に評価されにくいのも問題点です。こうした曖昧さは、社員の不信感や制度への不満につながり、目標管理制度の信頼性を損ねる原因になりかねません。
運用コストが高く、定着しにくい
目標管理制度は目標の設定・中間レビュー・最終評価と、運用の各段階で多くの工数と時間を要します。特に管理職には、部下一人ひとりと丁寧な面談を行い、進捗をフォローしながら適切なフィードバックを与える責任が求められ、業務負担が増大します。
また、評価制度の整備や社内研修など、制度を定着させるためには継続的なリソース投入が必要です。これらのコストに見合った効果が感じられない場合、現場での運用が形骸化したり、途中で制度自体が放棄されるリスクも高まります。
結果重視でプロセスが軽視される
目標管理制度では、目標の「達成度」が評価の中心となるため、どうしても成果や数値目標ばかりが重視されがちです。その一方で、業務の進め方や挑戦姿勢、チームへの貢献といったプロセス面は評価の対象から漏れやすくなります。
結果が出なかった場合に、それまでの努力や学びが正当に認められないと、社員の意欲が低下する恐れがあります。また、短期的な成果に集中しすぎることで、長期的な視点での成長や改善が後回しにされるという弊害もあります。
健全な評価制度の運用には、成果だけでなくプロセスを適切に評価する視点が不可欠です。
目標管理制度(MBO)を成功させるためのポイント
先述の問題点を解決し、目標管理制度を上手く運用するためにはいくつかのポイントがあります。成功のポイントをしっかり抑えて、時代遅れと言われない目標管理制度運用を目指しましょう。
- 組織ビジョンと連動した目標設定を行う
- 目標設定のプロセスに納得感を持たせる
- 定期的にフィードバックと進捗確認を行う
- 評価基準の透明性と一貫性を保つ
- 結果だけでなくプロセスも評価する
組織ビジョンと連動した目標設定を行う
目標管理制度を効果的に運用するには、個人の目標が組織全体のビジョンや戦略としっかり結びついていることが重要です。個人が目標を達成することで、組織全体の成長や方向性に貢献しているという実感を持てるように設計することで、社員のやりがいと責任感が高まります。
また、上位目標と連動した形で目標を設定することで、部門間の連携も取りやすくなり、組織全体の一体感を強化する効果も期待できるでしょう。
目標設定のプロセスに納得感を持たせる
目標は上司から一方的に与えられるものではなく、部下と対話を重ねながら設定することが重要です。現場の実情や本人の能力、キャリア志向を踏まえたうえで、現実的かつ挑戦的な目標をすり合わせることで、納得感と主体性が生まれます。
納得して決めた目標であれば、達成に向けてのモチベーションも高まり、実行力のある行動へとつながります。双方向のコミュニケーションが、制度の成功には欠かせません。
定期的にフィードバックと進捗確認を行う
目標を設定しただけで終わるのではなく、定期的な進捗確認とフィードバックを行うことで、MBOの効果は大きく高まります。たとえば、月次や四半期ごとの面談を通じて、現状の達成度を確認し、課題の修正やリソースの再配分を行うことが重要です。
また、上司からの建設的なフィードバックは、部下の成長を促すだけでなく、信頼関係の強化にもつながります。継続的な対話が、目標達成と人材育成を両立させるでしょう。
評価基準の透明性と一貫性を保つ
目標管理制度を成功させるためには、評価の基準が明確で一貫していることが重要です。曖昧な評価基準や評価者ごとのばらつきがあると、社員の不満や不信感を招き、制度そのものの信頼性が損なわれてしまいます。
評価項目や判断基準をあらかじめ明示し、全社員が共通認識を持てるようにすることで、納得感のある評価が可能になります。また、フィードバック時に評価の根拠をしっかりと伝えることも大切です。
結果だけでなくプロセスも評価する
目標管理制度は成果主義に基づく制度ですが、数値的な結果だけでなく、その過程での努力や改善の取り組みも評価対象とすべきです。たとえば、未達成の目標であっても、困難に立ち向かいながら工夫を重ねたプロセスには価値があります。
プロセスを評価することで、挑戦を促す風土が育まれ、長期的な人材育成にもつながるでしょう。また、チームでの貢献や周囲への影響なども視野に入れた評価が、より公平で納得のいく制度運用を実現します。
目標管理制度(MBO)が向いている企業の特徴とは?
目標管理制度の運用は企業に様々なメリットをもたらす反面、いくつかのデメリットや問題点も存在するのが現実です。どのような企業が目標管理制度を導入すると効果的なのか、詳しく見ていきましょう。
目標管理制度(MBO)が向いている企業の特徴
目標管理制度が効果を発揮しやすいのは、個人の裁量が大きく、成果が数値で明確に示される業務を持つ企業です。
営業職やコンサルティング、開発系など、目標が定量化しやすい業種では、MBOにより社員の行動が明確になりやすく、評価もしやすくなります。また、目標設定や評価のプロセスに時間とリソースをかけられる企業、上司と部下の信頼関係やコミュニケーションが活発な企業にも適しています。
組織として明確なビジョンや戦略があり、それに個人の目標を結び付けられる体制が整っていることも重要な条件です。
目標管理制度(MBO)が向いていない企業の特徴
目標管理制度が機能しにくいのは、業務内容がルーティンワーク中心で成果を数値化しにくい企業や、組織としての目標や方向性が不明確な企業です。
また、評価に割く時間や人材が不足している場合、制度の運用が形骸化し、逆に不満や混乱を招く可能性があります。上司と部下の対話が少なく、目標設定や評価が一方的になりやすい文化の企業では、社員の納得感やモチベーションが低下しやすくなります。
柔軟性が求められる変化の激しい業界でも、長期的な目標設定が実態に合わず、制度が形骸化するリスクがあると考えられるでしょう。
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まとめ
本記事では、目標管理制度が時代遅れと言われる理由と、運用を成功させるためのポイント、本来のメリット・デメリットや問題点、向いている企業の特徴についてもまとめました。
目標管理制度は、個人の成果を可視化し、組織の方向性と整合させるための有効な制度です。しかし、適切に運用しなければ形式的になりやすく、評価の不透明さや高い運用コストといった問題が発生する可能性もあります。
現代の多様化した価値観や変化の激しいビジネス環境に対応するには、柔軟で納得感のある目標設定や、プロセスも含めた評価視点が求められます。目標管理制度は企業文化や業務特性に合った形で運用することで、個人と組織双方の成長を後押しする強力なツールとなり得ます。